『陰徳を積む』

 

『陰徳あれば陽報あり』

…人知れず善い行いを実践し続けると、その功徳が積もり積もって、

コップから水が溢れるように、目に見える形で、その果報が表に出始めるのです

 

「陰徳」は、人間にとって、最も難しく、また最も尊いことと言えるかもしれません

なぜなら人間には、早く人から評価されたい! という欲がどうしてもあるからです。

 

 

私が身延山での修行の時、すばらしい『陰徳』を”目撃”してしまったことがありました。

 

それは、写経の課題後のこと。

次の課題の時間も迫っていたため、皆、自分の写経道具を急いで洗い、課題の準備のため、部屋に戻っていきました。

 

たまたま私は、写経の先生に話し掛けられたため、片付けを始めるのが遅れてしまい、

筆や硯石をあらうため急いで洗面所に向かいました。

その時、一人、洗面所で作業をする人影が見えたのです。

 

”この人も遅れてしまったのかな…”

そう思い、背後から「お疲れ様です」と声を掛けました。

それは、いつも無口で見た目も非常に地味で、今までほとんど話をしたことのない修行仲間でした。

 

「ああ、お疲れ様です…」

小声で返事を返した彼が、一生懸命やっていたこと。

何だと思いますか?

 

なんと、皆が急いで書道具を洗ったために、あちこちに墨のカスが飛んで汚れてしまった洗面所を

なんと自分の手のひらでこすって掃除をしていたのです。

その、淡々と、当たり前のように掃除をする彼の姿は、

今でも私の脳裏に焼き付いています。

 

その後も彼とはほとんど会話を交わすことはありませんでしたが、

『陰徳』の素晴らしい手本を見せてくれた彼のことは、きっとこれからも忘れることはないでしょう。

 

 

「なんで自分は地味なことばっかりしなきゃいけないんだ!」

そんな不満でおしつぶされそうになった時、

『陰徳あれば陽報あり』

という教えを想い出して、自分を励ましてあげてください。

もちろん、私自身も。

 

合掌